Rocky Linux 10 は Red Hat Enterprise Linux(RHEL)10 をソースとして構築されたエンタープライズ向け Linux ディストリビューションです。2025年の RHEL 10 GA リリースに続き、Rocky Linux 10 も 2025年後半に一般公開されました。本記事では、既存の Rocky Linux 9 または CentOS 系環境から本番への切り替えを検討する運用担当者を対象に、互換性検証の手順・マイグレーション設計・切り戻し計画を整理します。
Rocky Linux 10 の主要変更点と本番評価の前提
Rocky Linux 10 は RHEL 10 と ABI(アプリケーションバイナリインタフェース)互換を維持しており、RHEL 向けにビルドされたバイナリやパッケージは原則として動作します。ただし EL9(RHEL/Rocky Linux 9)との間には複数の破壊的変更が含まれており、EL9 で動いていたアプリケーションが EL10 でも無修正で稼働するとは限りません。
本番評価に入る前に押さえておくべき主な変更点は以下のとおりです。
- DNF5 がデフォルトのパッケージマネージャーに:DNF4 とコマンド互換はありますが、設定ファイルのパスや一部の挙動が変化しています。Ansible Playbook など自動化スクリプトが DNF4 の挙動に依存している場合は修正が必要です。
- Python 3.12 がシステム Python に:EL9 のデフォルト Python 3.9 から大幅にバージョンが上がり、
distutils・impなど削除された標準モジュールへの依存がコード修正につながります。 - cgroups v1 の廃止:カーネルレベルで cgroups v1 互換レイヤーが削除されました。古い Docker バージョンや cgroups v1 前提の監視エージェントは動作確認が必要です。
- OpenSSL 3.2・SHA-1 署名の無効化:SHA-1 ベースの TLS 証明書や SSH ホストキーはデフォルトで拒否されます。内部通信に古い証明書を使用している環境では移行前に証明書の更新が必要です。
- カーネル 6.12 LTS:新しいハードウェアサポートが充実する一方、古いドライバーモジュールとの互換性は低下します。
これらの変更を踏まえると、「RHEL 10 認定済み」のサポートが確認できないサードパーティ製品や、組み込み Python スクリプトを多用する環境では、本番移行前の検証に相応の工数を見込む必要があります。
RHEL 10 互換性の検証手順
本番移行の前に、まずステージング環境で互換性を体系的に確認します。検証は大きく 3 段階に分けられます。
パッケージ・依存関係の確認
現行 EL9 環境にインストール済みのパッケージ一覧を取得し、EL10 のリポジトリに存在するかを確認します。
# EL9 側で現行パッケージ一覧を出力
rpm -qa --queryformat '%{NAME}\n' | sort > /tmp/el9_packages.txt
# EL10 ステージング環境でインストール可否を確認(想定例)
while read pkg; do
dnf info "$pkg" &>/dev/null || echo "MISSING: $pkg"
done < /tmp/el9_packages.txt
EPEL や独自リポジトリに依存しているパッケージは EL10 向けの対応が遅れることがあります。一覧を作成したうえで、代替パッケージや自前ビルドの要否を判断します。
アプリケーション動作テスト
Python バージョン変更の影響を確認するには、アプリケーションを Python 3.12 環境で実行し、非推奨 API や削除された標準ライブラリへの依存を洗い出します。
# 非推奨 API の使用箇所を検出(-W フラグで警告をエラーに昇格)
python3 -W error::DeprecationWarning -m pytest tests/
distutils や imp など Python 3.12 で削除されたモジュールを参照しているコードはこの段階で洗い出し、修正範囲を見積もります。
SELinux・セキュリティポリシーの確認
EL10 では SELinux ポリシーが更新されており、EL9 で問題なかった操作が AVC 拒否(denied)になるケースがあります。ステージング環境で audit.log を確認し、必要であればカスタムポリシーを更新します。
# AVC 拒否ログの確認と原因分析
ausearch -m AVC -ts recent | audit2why
マイグレーション設計の考え方
EL9 → EL10 のマイグレーションには、主に「インプレースアップグレード」と「新規構築+データ移行」の 2 つのアプローチがあります。どちらを選ぶかは、サービスの停止許容時間・ワークロードの複雑さ・検証結果によって判断します。
インプレースアップグレード(leapp)
RHEL 公式のアップグレードツールである leapp は Rocky Linux にも移植されており、EL9 から EL10 へのインプレースアップグレードに対応しています。leapp preupgrade コマンドで互換性上の問題をレポートし、対処が必要な項目をリストアップします。
# 事前チェックの実行(本番適用前に必ず実施)
sudo leapp preupgrade
# レポートの確認
cat /var/log/leapp/leapp-report.txt
leapp が「inhibitor」として報告した項目はアップグレードをブロックするため、すべて解決するまでアップグレードは実行できません。よくあるつまずきとして、EL10 未対応のサードパーティリポジトリが有効になっている場合や、カスタムカーネルモジュールが存在する場合が挙げられます。
新規構築+データ移行(ブルーグリーン方式)
サービスを停止せずに移行したい場合や、leapp の事前チェックで修正コストが大きいと判断した場合は、EL10 を新規インストールした環境を並行稼働させてから切り替える方式が適しています。コンテナ化されたワークロードはイメージのベースを rockylinux:10 に変更して再ビルドするだけで済む場合が多く、移行の単位として扱いやすいです。ロードバランサーやDNSの向き先を切り替えることで、ダウンタイムを最小化しながら本番切り替えが行えます。
切り戻し計画の設計
本番移行後に問題が発生したときの切り戻しを事前に設計しておくことは、リスク管理の基本です。移行方式によって切り戻し手段が異なります。
LVM スナップショットによる切り戻し
インプレースアップグレードを選んだ場合、アップグレード前に LVM スナップショットを取得しておくことでファイルシステムレベルの切り戻しが可能です。
# アップグレード前にスナップショットを作成(想定例)
# /dev/vg0/root が対象ボリューム、空き容量に応じてサイズを調整
sudo lvcreate -s -n root_snap_before_el10 -L 20G /dev/vg0/root
# 切り戻し時はスナップショットをマージ
sudo lvconvert --merge /dev/vg0/root_snap_before_el10
スナップショットはディスク容量を消費するため、切り戻し不要と確認できた段階で削除します。LVM 環境でない物理サーバーや VM の場合は、ハイパーバイザー側のスナップショット機能を利用します。
ブルーグリーン方式の切り戻し注意点
新規構築方式では、ロードバランサーやDNSの向き先を元の EL9 環境に戻すだけで切り戻しが完了します。ただし、EL10 環境でデータベースへの書き込みが発生していた場合はデータの差分を考慮する必要があります。移行初日は書き込みを最小化するか、読み取り専用ワークロードから順に切り替えることで、切り戻し時のデータ整合性リスクを下げられます。
2026年現行環境での差分と既知の注意点
2026年11月時点では、Rocky Linux 10 は GA から約1年が経過しており、マイナーポイントリリースによる品質向上が進んでいます。一方で、以下の点は継続して確認が必要です。
- EL9 のサポート期限(2032年)は十分残っている:セキュリティ要件や移行コストを比較したうえで、EL9 のまま継続するという選択肢も合理的です。EL10 に急いで移行する理由がなければ、1~2年の実績が積み上がってから判断しても遅くはありません。
- サードパーティ製品の EL10 対応状況の確認:データベースエンジン、監視エージェント(Zabbix・Prometheus exporter 類)、HSM ドライバーなどはベンダーの EL10 対応状況を個別に確認します。製品によっては EL9 向けパッケージのみの提供にとどまる場合があります。
- cgroups v1 依存の洗い出し:古い Docker バージョンや一部の Java アプリケーション(JVM の cgroups v1 モード)は事前の移行が必要です。コンテナランタイムを Podman 5.x に移行し、JVM の cgroups v2 サポートを確認します。
- DNF5 の設定差分:
/etc/dnf/dnf.confは引き続き存在しますが、一部の設定キーが変更・廃止されています。プロビジョニング自動化を見直す際に合わせて確認します。 - AlmaLinux 10 との選択:Rocky Linux と同じく RHEL 10 ベースの AlmaLinux 10 も 2026年時点で安定稼働しています。技術的な差異はほぼありませんが、組織のサポート契約やコミュニティとの関係性で選択します。
Rocky Linux 10 への移行は、変更点の多さから準備工数を過小評価しがちです。特に Python バージョン変更・cgroups v1 廃止・SHA-1 無効化の 3 点は、既存の運用スクリプトや監視設定に広く影響します。ステージング環境での検証と切り戻し計画を事前に整備したうえで、本番移行の判断を進めることを推奨します。
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